翻訳:ナオミ・クライン - 〈資本主義〉対〈気候変動〉 [6/8]
〈資本主義〉対〈気候変動〉
Capitalism vs. the Climate
2011年11月09日 - ナオミ・クライン
原文:http://www.thenation.com/article/164497/capitalism-vs-climate?page=full


――階級的特権と気候変動否定論の関係


 ハートランド会議――アイン・ランド協会からヘリテージ基金までの全員が、書籍とパンフレットを呼び物にしたテーブルを構えていた――では、それらの心配が表面の近くまで達していた。バストは、ハートランドの気候科学反対キャンペーンは、科学的事実が要請する政策に対する恐怖から生まれたものだという事実を明かにした。「私たちがこの問題を眺める時、これは政府の役割を大幅に増大させるためのレシピじゃないか、と言います……。私たちがこの段階を踏む前に、科学に対して別の見方をしてみましょう。そこで、保守派とリベラル派の集団は、私が思うに、立ち止まってこう言ったのです。信念の問題として、単にこれを受け入れないことにしようと。私たち自身で本物の調査を始めようじゃないかと」。これは彼らを理解するための重要な点だ。否定論者を駆り立てているのは、気候変動の科学的事実への反対というよりも、それらの事実が現実世界で意味する政策への反対なのだ。

 バストが述べた――例え不注意であっても――のは、気候変動の原因に関する劇的な移行を説明しようと、増え続ける社会科学者たちの集団から、最近大きな注目を集めている現象のことだ。エール文化認知プロジェクト(Yale’s Cultural Cognition Project)の研究員たちは、政治的/文化的な世界観が、「個人の地球温暖化についての信念を、他の全ての個人的性格よりも強力に」説明することを発見した。

 「平等主義的」で「コミュニタリアン」的な世界観(集団行動や社会的正義への傾向、不平等への関心、企業の権力への疑念によって特徴付けられる)を強く持つ人々は、気候変動についての科学的コンセンサスを圧倒的に受け入れている。それに対して、「階層秩序的」で「個人主義的」な世界観(貧困層やマイノリティへの政府の援助に対して反対、産業界を強く支持、自分にふさわしいものは自分で手に入れるとする信念を強く支持)を強く持つ人は、科学的コンセンサスを圧倒的に拒絶していた。

 たとえば、もっとも強く「階層秩序的」世界観を示すアメリカの人口層では、たったの一一%のみが、気候変動を「高リスク」と評価するに過ぎない。もっとも強く「平等主義的」世界観を示す人々の層の六九%と比べるといい。この研究の指導者エール大学の法学教授ダン・カレンは、この「世界観」と気候科学の受容の間の緊密な相関関係を、「文化的認知」に結びつけている。これは、自らの抱く「良い社会の選好的ヴィジョン」を守るための方法に従って、私たちの全て――政治的傾向にかかわりなく――が、新しい情報をフィルターにかけるプロセスのことを意味する。カーンが『ネイチャー』誌で論じているように、「高貴だとみなされる振る舞いが、そうであるにもかかわらず社会にとって有害であり、卑しいとみなされる振る舞いが社会にとって有益だとわかると、人々は当惑する。なぜなら、そうした主張を受容すれば、自分の仲間との間にくさびが入るかもしれないからだ。人々はそれを拒絶する強力な感情的傾向を持っている」。言葉を換えるなら、自分の世界観が崩壊するのを見つめるよりも、現実を否定する方がいつでも簡単だということだ。頑迷なスターリン主義者が粛正の絶頂にあった時に真実だったように、今日ではリバタリアンの気候変動否定論者がそうだということである。

 強力なイデオロギーは、現実世界の動かしがたい証拠によって脅かされても、完全に死ぬことはまれである。それどころか、カルト的で周縁的なものへと変容する。わずかな本物の信奉者たちは、いつもお互い同士の間で、問題はイデオロギーにあるのではなく、充分に厳格な規則を適用できない指導者たちの弱さにあると語る。これらのタイプ人物像は、スターリン主義左派に見て取れるが、ネオナチ右派についても同様に存在している。歴史のこの時点において、自由市場原理主義者たちは、『選択の自由』と『肩をすくめるアトラス』を密かに愛でるために残して置き、似たような周縁的地位へと追放されるべきである。彼らがこの運命から逃れている唯一の理由は、単に彼らの最小政府というアイディア――いくら現実と矛盾していることが明らかであっても――が、チャールズとデビィッド・コークや、エクソンモビルなどのシンクタンクに面倒を見て貰っている、世界中の百万長者たちにとって、大変に有益であり続けているからである。

 これは「文化的認知」のような理論の限界を指し示している。否定論者は、彼らの文化的世界観を守るためによくやっている。彼らは、気候変動に関する議論を混乱させて、利益を得るために、強力な利害関係を守ろうとしている。否定論者と利害関係者の絆は、よく知られており、はっきりと記録されている。ハートランド協会は、コーク兄弟とリチャード・メルソン・スカイフに連なる財団とともに、エクソンモビルから一〇〇万ドル以上のお金を受け取っている(他にもいるかもしれないが、このシンクタンクはそうした情報が「私たちの立場の利点」を逸らすと主張して、寄付者の名前の公表を止めてしまった)。

 そして、ハートランドの気候会議に出席する科学者たちは、ほとんど全員が化石燃料のドル箱に足を突っ込んでおり、ほとんどその臭いを嗅ぐこともできるほどだ。二つの例を引用すると、会議で基調講演を行ったカトー協会のパトリック・マイケルは、かつてCNNに対して、彼のコンサルタント会社の収入の四〇%は、石油会社からのものだと述べたことがある。そして、残りのどれだけが石炭会社からのものだと誰が知っているだろう。会議でのもう一人の講演者、天体物理学者のウィリー・スーンに対するグリーンピースのある調査は、二〇〇二年以来の新調査の補助金が化石燃料関係からだと明らかにした。また、気候科学を損なおうとする強い動機を持つ経済的利害関係者は、化石燃料会社だけではない。もし、この危機を解決するために、私が概要を述べたような、種々の根本的な経済秩序の変革が必要なら、規制緩和、自由貿易、低い税率から利益を得ている全ての大企業はそれを恐れる充分な理由がある。

 これらの論点からすると、気候変動否定派が、全体的に見て、私たちのひどく不平等で機能不全の経済的現状に、もっとも投資している人々だというのは、少しばかりの驚きかもしれない。気候変動の受容に関する研究でもっとも興味深い発見の一つは、気候変動の科学の拒絶と社会的経済的特権の間に明らかなつながりがあることだ。圧倒的にも、気候変動否定派は保守派であるだけでなく、白人男性――平均よりも高収入の集団――なのだ。そして彼らは、どれほど明白な間違いであれ、他の成人集団よりも自分たちの見方について自信を持っている。かなり話題になったアーロン・マクライトとライリー・ダンロップによる(忘れがたくも「冷たいやつら(Cool Dudes)」という題名の)この問題に関する論文は、自信に満ちた保守的な白人男性は、集団として、残りの調査対象の成人に比べておよそ六倍ほど、気候変動が「決して起きないだろう」信じる傾向があることを発見した。マクライトとダンロップは、この違いについて簡単な説明を提示している。「保守的な白人男性は、偏ったことに、私たちの経済システムの中で権力を持つ地位を占めている。気候変動が産業資本主義経済体制に提示する広範な挑戦によって、保守的な白人男性の持つシステムを強く正当化する態度が、気候変動を否定する要因となるのは、驚くべきことではない。

 しかし、否定論者の相対的な経済的社会的特権は、新しい経済秩序によって、より多くのものを失う理由を与えるだけではない。何よりもそれは、彼らに気候変動のリスクについて、楽観的な態度を取る理由を与えるものでもある。これは、ハートランド会議で講演者のまた一人が、気候変動の犠牲者への共感の完全なる欠如と呼ぶしかないものを示すのに、耳を傾けていた時に私が体験したことだ。自己紹介に「宇宙建築家(space architect)と記すラリー・ベルが、群衆に少しの温暖化はそう悪くないといって多くの笑いを誘った。「私はわざわざヒューストンに引っ越したんだ!」(当時ヒューストンは、アメリカ史上最悪の一年間の干魃と後に判明するものの真っ最中だった)。オーストラリアの地質学者ボブ・カーターは、「私たち人類の見地からすれば、温暖化時代において、世界は実際良くやっている」と提示した。そして、パトリック・マイケルは、気候変動を心配する人々は、一万四〇〇〇人の市民が死んだ二〇〇三年の壊滅的な熱波の後に、フランス人たちがやったことを見習うべきだと発言した。「彼らは、ウォルマートとエアコンを発見したんだ」。

 これらの冗談に耳を傾けている間にも、「アフリカの角」〔アフリカ最東北端の地域〕で、一千三〇〇万人と見積もられる人々が乾いた大地の上で飢餓に直面していることは、深く心をかき乱す事実である。彼らの無関心を可能にしているのは、もし否定論者が気候変動について間違っていたとしても、数度の温暖化は先進国の豊かな人々が心配するほどのものではないという固い信念だ(「雨が降れば、避難所を見つける。暑くなれば、日陰を見つける」と、エネルギーと環境小委員会の聴聞会で、テキサスの議員ジョー・バートンは述べた)。

 その他のあらゆる人々はと言えば、つまり、彼らは施しを求めるのを止め、貧乏から抜け出すのに忙しくすべきだった。気候温暖化に彼らが適応するための費用を支払って、貧困国を助ける責任が富裕国にはあるか、とマイケルに尋ねた時、彼は、それらの国々にお金を与える理由は何もない、「なぜなら、いくつかの理由で、彼らの政治体制には、温暖化に適応する能力がないからだ」と、嘲笑した。本物の解決策は、彼の主張によれば、もっと自由貿易をすることだった。

  * * *


訳者コメント:
 彼女のTwitterによれば、ナオミ・クラインの次回作の一部もしくはその草稿のようなものであるらしい「〈資本主義〉対〈気候変動〉(Capitalism vs. the Climate)」と題された長文論説の全訳を分割して公開。文字数制限のためコメントは割愛。目次はこちら。続きはこちら

by BeneVerba | 2012-06-03 11:06 | 翻訳 | Trackback | Comments(0)
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