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ウォール街占拠についての本『99%の反乱』の翻訳者の一人である山形浩生氏が、発売からさほど立っておらず、売れ行きも定かではない、私の初めての翻訳書『ウォール街を占拠せよ/はじまりの物語』を口を極めて罵っている。しかし、それらの非難は事実において全く根拠がないものである。以下そのことを指摘する。
この本に対する氏の評価は、まず「少し時間がたった客観性皆無」の本というものだが、『ウォール街を占拠せよ/はじまりの物語』の「序文」(訳者序文などではなく、原著者たちが書いた序文)には、「私たちがこの本を出版しようとしている二〇一一年一二月はじめ」とあり、原著が出版されたのは今年二月である。それから翻訳権の交渉もあり、翻訳作業に半年はかかる。氏が翻訳家であることを考慮すれば、こうした事情は当然氏も知っているであろう。 以上を考慮すれば、「少し時間がたった」くせに、との言葉は、狡猾な悪意に基づいた攻撃であり、読者を誘導するものである。付け加えるに「序文」には、「この本は、『ウォール街を占拠せよ』(OWS)の最初の数カ月間の記録である」と明記されている。そのような本に対して、「少し時間がたった段階での客観的なものの見方や反省、今後の展望とかについてある程度は包括的な視点が出ているのか」と期待するのは勝手だが、そうではなかったからといって本の評価を下げるという評価は許されない。 間違いは続く。さらに、氏にとっては残念なことに『ウォール街を占拠せよ/はじまりの物語』には「占拠運動の未来」という分析的な章があるのである。また、「序文」にもあるように、「OWSのような水平性を特色とする運動を、公的な立場から代表することは、不適切かつ不可能」である。氏は本書についてもOWSについても、大きな勘違いをいくつも犯してしている。 『ウォール街を占拠せよ/はじまりの物語』は、OWSの当事者によるインサイド・ストーリーであり、ドキュメントである。数十名の人々が携わった書籍であり、各章の視点も異なっているどころか、一つの章も複数の人数で書かれている(おかげで翻訳には苦労させられた)。言い換えれば、この本はまさにOWS的なやり方で書かれている。それは序文に書かれている通りである。 この本に書かれているのは、九月一七日以前(そう、OWSは突然始まったのではない)の胎動期(例えばブルームバーグヴィル)や、OWSが始まってからの作業部会での活動、OWSが経験したことなどである。それらはいずれも「記述的」と呼ぶのがふさわしい(実際、編集者とのやりとりでは、何度もこの言葉が出ていた)抑制的な文体で書かれている。 また、多くの人は、OWSとスペインのM15の間に人的交流があることを知らない。マイケル・ムーアのYouTubeのチャンネルで、エジプトの組合指導者がウィスコンシン州の運動を激励していたことも知らない。この二つは本書に書かれていることであるが、もちろん書かれているのはそれだけではない。また、拙ブログで訳出したように、エジプトの革命家たちもまた資本主義を問題にしている。 それからまた、本書の中で極めて重要な役割を果たす場面があるジョージア・サグリについて、高祖岩三郎氏の解説では「ギリシアの芸術家ジョージア・サグリ」として触れられている。こうした読解力を持つ山形浩生氏に高祖岩三郎氏の解説を論ずる資格はない。 このような内容の本に、類書の翻訳者である山形浩生氏が「客観性皆無」「中身は『99%の反乱』とほとんどかわらず」などという言葉を投げ付けているのである。 多くの人々が、OWSについての不十分な報道をもとに、OWSとは何かを語っているというのが状態である。この本はそれを人々に伝えるための本である。なぜならばOWSは全民衆のためのものだからだ。にもかかわらず、山形氏の書評になっていない書評は、それを人々から奪うものである。 「そして訳者は、ジャスミン動乱とギリシャやスペインの政府緊縮策反対デモと、このウォール街占拠が同じ流れの運動だと強弁するんだけど」と書く山形氏の間違いは、上に述べた部分からだけでも明らかだろう。だが、何よりも、著者たち(繰り返すがOWSの当事者たち)が次のように書いているのだ。『ウォール街を占拠せよ/はじまりの物語』から引用する。 「ウォール街を占拠せよ」は、昨年(二〇一一年)のうちに世界中のほとんどすべての大陸へと到達した、グローバルな運動の一部である。それぞれの抗議運動は異なる国家において、異なる政治体制のもとに行われており、各運動が要求するものも異なっていた。しかし、それらのすべては、軛から解き放たれたグローバルな資本主義が生み出す不平等に対して、よく似た憤激を表明している点で一致していた。 ちなみに引用した部分は、第一章にあたる「はじまり」のほぼ冒頭部分である。 また氏によれば、「頭に血の上った人が左翼『うんどー』ジャーゴンまみれにしてくれたせい、かえってわかりにくくなっている」そうだが、それがどこであるかは具体的に指摘する気はないようだ。しかし、序文にもあるように、「この抗議は、半世紀前の公民権運動以来、アメリカでもっとも重要な革新的運動」である。どうやら山形浩生氏は、OWSの当事者以上にこの運動を理解しているらしい。私は「Peoples Mic」を「人民マイク」と訳した。しかし、実は私はこの言葉を翻訳以前に、町山智浩氏の現地レポートで知っていたのであり、町山氏の『アメリカ格差ウォーズ』でも「人民のマイク」と訳されている。 イベントやったとか、アーティストがきてアートパフォーマンスやりましたとか、ぼくはこうした運動において誇るようなことではないと思う。お祭りにすればするほど、一般人の(99%の!)普通の要求からは乖離するだけだし、ブラックパンサーのアンジェラ・デイビスを祭り上げたりして60年代過激左翼運動と結びつけようとするのは、ぼくはマイナスだと思っている。が、左翼の活動家は、ついに自分の春がきたとかんちがいしてはしゃぐばかり。 端的に言って、この部分の最初は誤読がひどいために意味不明である。おそらくは、OWSの芸術文化作業部会のことを言っているのだろう。『ウォール街を占拠せよ/はじまりの物語』に書かれているように、芸術文化作業部会はOWSに当初から参加している重要な組織である。「アーティストがきて」は明白な間違いである。 『ウォール街を占拠せよ/はじまりの物語』の「ボキュパイ――有色人たちの占拠運動」は、極めて重要な章である。この章では、社会の不平等な仕組みを壊そうとする社会運動が、自分たちが壊そうとする社会そのものの複製になってしまうこと(言うまでもなく反原連の問題と類似する問題!)が取り扱われている。 上で紹介した内容の一部からわかるように、『ウォール街を占拠せよ/はじまりの物語』は、参加者たちとその行動にスポットを当てた本であり、ズコッティ広場を訪れた有名人についての記述はほとんどない。わずかな例外の一つは、「ボキュパイ」の中でアンジェラ・デイヴィスのスピーチが引用されていることだ。私はそれを訳す時に訳註をふって註記を書き、訳者あとがきでこの章についてふれた。それをこのように歪曲しているのである。 間違いはそれだけではない。ここで想定されているのは、彼の年齢(山形氏も若いとは言えないが)より上の左翼活動家なのだろう。だが、事実として私は山形浩生氏よりはるかに年下であるし、脱原発デモには参加するが、そして「左翼」なのだろうが、いわゆる「左翼活動家」ではない。 山形浩生氏の事実誤認、目に余る誤読、そして、その誹謗と中傷は上述のように明らかであり、http://cruel.org/ に謝罪文を掲載すること、そして、記録として当該の書評を削除せず、謝罪文へのリンクなど明記して残すことを山形浩生氏に要求する。 [追記] あまりまとまっていないが、こちらも参照してほしい。 http://togetter.com/li/388738 10/13の変更点: 変更前:「少し時間がたった段階での客観的なものの見方や反省、今後の展望とかについてある程度は包括的な視点が出ているのかと期待していた」。しかし、 10/17の追記:
by BeneVerba
| 2012-10-12 17:09
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