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私は、『ウォール街を占拠せよ――はじまりの物語』の翻訳者として起用される以前から、インターネットで寄付を募ることを考えていました。稼ぐためにではなく、インターネットでの翻訳活動を自律したものとして維持するためにです。外国語で書かれた記事を翻訳することは、その記事を読むのに比べて、はるかに多くの時間がかかります。さっと読めるような記事でさえ、いざ日本語に訳してみると結構手間がかかるものです。自分の生活から、翻訳に必要な時間と労力を割いてもよい、と思えるだけの何かが必要でした。
二〇一一年の一〇月から一一月にかけて、「ウォール街を占拠せよ(OWS)」運動がもっとも慌ただしい展開を見せていた頃に、この運動に関連する文書を立て続けに翻訳しながら、感じていたことが、いくつかありました。そのうちの一つは、この先もこの動きに付き合っていくことになるのだろうということ。もう一つは、翻訳活動が明らかに実生活を犠牲にしているということでした。 その当時に、ブログなどで書いたりしませんでしたが、翻訳に時間を取られるあまりに、いくつかの大切な案件をしくじっていました。それにまたインターネットで翻訳を公開することには、いくつかの危険も伴っていました。 人々と共有したいと思う文書を翻訳し公開するのに、インターネットは非常に適したメディアだと思います。しかし、いくらインターネットで広く読まれた翻訳であっても、後で活字による翻訳が現れると、そちらの方が「正典」と見なされかねません。 また、私が既に翻訳を発表している文書を、他の誰かが別に訳すことになった際に、その人が私の翻訳をこっそり参照しつつ、そのことには言及しなかったとしても、それを防ぐ手だてはありません。以前に、中野真紀子氏がオンラインで発表していた翻訳を、早尾貴紀氏が剽窃したとして、中野氏が抗議したことがありました。インターネットで翻訳を公開することには、無報酬かつ無記名の下訳係として利用される危険性が付きものなのです。 上述のような理由ゆえに、その後『はじまりの物語』を翻訳することになったのは、喜ばしいことでした。時々翻訳書を出せるのなら、インターネットで世界の社会運動を紹介するという私の仕事を、側面から支えるものになるだろう、と考えたのです。それに加え、『はじまりの物語』を翻訳する中で、OWSについて、また二〇一一年に起きた地球規模の運動について、知見を深めることもできました。 しかし、やがて暗転がやって来ます。 『はじまりの物語』の出版後に、次に翻訳する本をどうするかについて、大月書店との間でやりとりがありました。それは友好的かつ前向きなもので、その際に翻訳の候補として数冊の書籍が挙げられていました。しかし、私が、脱原発運動における日の丸の容認などを批判していることについて、大月書店側は否定的な態度を取り始めました。 大月書店が『はじまりの物語』の翻訳を打診してきたのは、二〇一二年の初頭ですので、私が、それ以前に、ブログなどでそうした傾向を批判してきたことを知っていたはずです。にもかかわらず、最終的には、ある一冊の本の翻訳者として起用することを断られました。 私が、脱原発運動における日の丸の容認や右翼との共闘に反対するのは、思想的な理由だけに基づくものではありません。もう一つの理由としては、私が韓国籍だった祖父(故人)を持つ日本国籍者として生まれたことが挙げられます。そして、大月書店側には、その両方の理由を伝えていました。私にとって、日の丸は、私のような人々を殺し、犯し、虐げ、支配してきた(そして、今もそうしている)旗です。 私は、そうした理由に基づき、脱原発運動の中の日の丸は全く容認できないし、批判を控えることはできないと伝えました。ですが、大月書店は私の首都圏反原発連合などへの「罵倒」を問題にし、「出版はビジネス」だとして、先に述べた書籍の翻訳者として私を起用することを拒否したのです。 日本も批准している「国際人権規約B規約」は、その第二七条において、マイノリティの権利を定めています。また、一九九二年に国連で採択された「マイノリティの権利宣言」では、より全面的にマイノリティの権利が謳われています(日本政府による朝鮮学校の無償化からの適用除外や、今まさに各地方自治体に広がりつつある、朝鮮学校への補助金打ち切りといった差別政策は、こうした権利を侵害するものです)。 国際人権規約B規約 マイノリティの権利は保障されており、民族的なアイデンティティを持つことは人権の一つです。私は、国籍としては日本国籍ですが、自分の中にある朝鮮半島とのつながりも、とても大切なものです。 私は、脱原発運動に携わりつつ、日の丸の容認などの誤った動きに反対してきました。私が、脱原発デモなどに出かける時には、崖から飛び降りるような決意を必要とします。なぜなら、そうした抗議の現場に行くと、必ずと言っていいほど日の丸があり、ほとんど全ての人がそれを容認してしまっているからです。 脱原発運動における日の丸や右翼を容認することは、「朝鮮人や中国人といったマイノリティよりも、日の丸や右翼の方が大切だ」と宣言しているのに等しいのです。そのような脱原発運動は、解放の場ではなく抑圧の場となっており、言いたいことを言う場であるよりも、はるかに言いたいことが言えない場になっています。現在の脱原発運動は、根深い日本人中心主義に陥っています。 脱原発デモを妨害するために、在特会や右翼がやって来ますが、デモの中にも日の丸が掲げられるなら、私の居場所はどこにもなくなります。私にとっては、どちらも恐怖の対象ですが、脱原発運動の中に日の丸があることは、後ろから撃たれるようなものです。 私が、こうして自分のプライバシーの一部(もちろん一部に過ぎません)を、状況に強いられつつも、明らかにすることを決めたのは、私のものであれ、誰のものであれ、マイノリティとしてのアイデンティティを社会が受け入れることは、当たり前のことだと考えるからです。しかし、日本社会は、全くのところ、多様なエスニシティを持った人々や、その他のマイノリティたちが社会の中に存在することを認めていません。そうであるならば、変わらなければならないのは私や私たちではなく、日本社会の方です。そして、私はそれを変えようとしているのです。 大月書店に対しては、加入している労働組合を通じて、昨年から団体交渉を要求していますが、まだ団交は行われていません。私は、この争議は契約関係を争うのみならず、自らの命と尊厳を賭けた闘いだと認識しています。 それにまた、この闘いは、現在の日本のファシズム状況との闘いでもあると考えています。非常事態を理由として、脱原発以外の重大な問題が棚上げされてしまい、その脱原発運動においても日の丸や右翼が跋扈し、これまで社会運動を担ってきた側も、それを受け入れてしまっているという状況です。私は、こうした傾向を「下からのショック・ドクトリン」とか「自発的なショック・ドクトリン」と呼んでいます。したがって、私が告発しているのは、大月書店だけではありません。 寄付を募る目的は、冒頭に述べたように、翻訳活動を持続的に続けてゆける状態を維持することです。しかしながら、もし、みなさんが、寄付という形で私を支援してくれるのなら、翻訳を通して、インターネットで世界の社会運動を紹介していくという活動に対してのみならず、大月書店との争議に対しても、大きな支援となります。 私の活動を支援していただけるのなら、寄付のご検討をよろしくお願いいたします。 ▼ 寄付の方法と寄付に対する考えなど 寄付には二つの方法があります。一つは郵便振替による寄付、もう一つはChari-boという募金代行サービスを使った寄付です。しかし、Chari-boは「システム利用料」として、「最大で20%」をさっ引くとのことなので、郵便振替口座への寄付の方を強くお勧めします。 寄付は、個別の翻訳ないしは文章ではなく、私の翻訳活動、著述活動の全体に対して寄付されるものとします。また、寄付の際にお寄せいただいた意見があれば、それらを参考にいたしますが、何を翻訳し、何を書くかという判断は私にあるものとします。また、寄付者からお寄せいただいた意見は平等なものと見なし、寄付金の多寡によって、軽重を計ることはしないものとします。 また、アマゾン・ドット・コム社のアフィリエイトを、導入することにしました。導入については迷いもありましたが、アフィリエイトを採用する側が、商品を選べることなどを考慮して決めました。書籍を購入する際に、利用していただけると助かります。他には、もちろん『ウォール街を占拠せよ――はじまりの物語』を購入することも、私への助けとなります。 ▼ 郵便振替 口座名義:芦原省一 関連エントリ:
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| 2013-03-31 21:37
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連絡 beneverba(at)protonmail.com 寄付のお願い他 ○寄付のお願い及び大月書店との係争について ○アマゾン・アフィリエイト経由での購入のお願い ○『はじまりの物語』が出版された直後の大月書店からの電子メールの抜粋 カンパのお願い 郵便振替 口座名義:芦原省一 口座記号:01710-5-72665 店名:一七九 預金種目:当座 口座番号:0072665 *ゆうちょ銀行以外から振り込む場合
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