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*SNSでの投稿を下にした初読時での小さな感想です。何度か投稿しなおしています。
この本はインタビューを元にしたものなので、体系だったものではなく、きっちりとは要約しづらい。だが、二つの視点を持っているとは言えるだろう。一つは東アジアやアラブ世界を視野に入れている点、もう一つはソ連型の共産主義国家も、資本主義国家もどちらも選べない現状に根ざしている点。 冒頭で、倫理的なものに対する政治的なものの優位が言われる。それは単に倫理よりも政治を優先しようということではなく、私たちが倫理とみなしているものが、政治的な判断に基づいていることを言っている。 その意味で、次の引用は象徴的に思える。「女性をレイプするのは間違っていると主張しなければならない状況で生きるなんて、私はごめんです。レイプがよいか悪いかを議論する必要がある社会とは、どんな社会でしょうか。レイプをきわめて不愉快な狂気の沙汰とみなすことには議論の余地はない、そう言い切れる社会が私の生きたい社会です。同じことは、人種差別、ファシズム、等々にも言えます」。 わたしたちが倫理とみなしているものは、暗黙の前提となった決断なのだ。上の引用もそうしたものとして、読んでいいだろう。 私たちは隘路にはまったように見える。どうすればいいのだろうか? だが、そこで決断を控えるのではなく、決断することを選べとジジェクは言う。この本の言葉づかいに従えば、ベケット的なレーニンだ。「もう一度やれ、うまくしくじれ」。それは、訳者の中山徹が指摘しているように、『大義を忘れるな』で述べられているところでもある。 やや大まかにまとめるなら、そこで冒頭の倫理的なものに対する政治的なものの優位に、再び話は戻ると言える。それは、単なる決断主義ではなく、あらたな領野を開くためのものと思われる。その意味で、副題となった「不可能なものを求めよ」は適切な文言だ。 ジジェクは、中国・シンガポール型の資本主義をたいへんに暗い選択肢とみなしているのだが、この本では一箇所ながら、日本もまたそうであることに触れられている。また、ジジェクが日本ではなく韓国に行ったことは、たいへん示唆的であるように思える。 私たちが住んでいる社会は、先の引用に従えば、「レイプがよいか悪いかを議論する必要がある社会」なのである。日本軍性奴隷制度(「従軍慰安婦」制度)などの歴史修正主義に関するうんざりするような言説を眺めるだけで、それはわかるだろう。 心に命じるべきは、ジジェクは、私たちが従うべき答えを持っているわけでもなんでもないということだ。しかし、私たちは、自分たちの決断において、何度でも繰り返し始めるべきではないだろうか?うまくしくじるために。
by BeneVerba
| 2014-05-31 15:54
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