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 大月書店の民族差別・思想差別・言論弾圧事件(大月書店が私に働いた仕打ちはこれらの要素を持っています)、及び団交拒否による不当労働行為事件に対し、支持を表明してくださるみなさまに対して、報告いたします。
 
 福岡地区合同労働組合の組合員である私は、福岡県労働委員会において、実質的な団交拒否を続ける大月書店に対して、昨年より不当労働行為に対する救済を申し立てていました。この度、福岡県労働委員会は、私の労働者性を認めず、不当にも救済申し立てを棄却しました。
 
 しかし、重要なのは、今回否定されたのは私の労働者性であって、大月書店が民族差別などを働いたかどうかではない、ということです。
 
 「実質的な団交拒否」というのは、私の居住地も組合の所在地も福岡県であるのにも関わらず、大月書店は、福岡地区合同労働組合からの要求書に対し、あくまでも会社所在地である東京での団交開催に固執し続けたことです。
 
 こうした「実質的な団交拒否」を不誠実団交と言い、労組法では不当労働行為として定めています。
 
 福岡地区合同労働組合は、やはり本社が福岡ではなかったサン・パートナーの係争において、「福岡での団交開催」命令を獲得し、これは中央労働委員会を経て、既に命令が確定しています。
 
 大月書店は、当初、私たちの組合の要求に対して、東京開催という条件付きでしたが、団交には応じると回答書を送っていたのです。しかし、労働委員会に救済申し立てを起こすと態度を翻し、合理的な理由も述べることなく、「撤回する」としました。
 
 団体交渉というのは、使用者の側に対して弱い立場にある労働者が、団結することで交渉力を獲得しようとするものです。ですので、組合が交通費その他を負担して、遠隔地である会社の所在地で団体交渉を開くことは、団体交渉の趣旨から言って、本末転倒なのです。
 
 また、私は、民族的・思想的なアイデンティティを捨てて、大月書店の指示に従うか、それとも、それらのアイデンティティを守って、翻訳契約を失うかという、非常に困難な立場に立たされたのですが、そうした困難は独力では解決できません。
 
 今回の福岡県労働委員会の今回の判断は、不当であると同時に、非常に保守的なものでした。
 
 労働委員会という場では、「労働者性」を判断するに当たって、労働基準法研究会「労働基準法の『労働者』の判断基準について」や労使関係研究会「労働組合法上の労働者性の判断基準について」といった辺りに示された判断基準が、デファクトスタンダードとなっています。
 
 私たちの組合では、「労働者」概念をより広くとった、革新的とも言える川口美貴『労働者概念の再構成』(2012年)を武器として、労働委員会で主張しました。
 
 また、前述のように大月書店事件は、民族差別、思想差別、言論弾圧としての性格も持ち合わせています。この点についても、労働委員会という場ながら、人権の問題として、ある程度は主張することができました。
 
 労働者性を判断する学説が複数あるのだから、それを踏まえて判断されるべきであるとの主張を、労働委員会にて展開したのですが、福岡県労働委員会の命令書には、私たちが特に念入りに述べたこの主張すら、触れられていません。あくまで、従来通りの基準に則った判断を下しました。
 
 それにまた、「労働者性」が争点として挙げられたのは、労働委員会が大月書店側の主張に引きずられたものです。労働委員会は、労組法に「労働者が団結することを擁護」するものとして定められているのだから、その点も不当であると言えます。
 
 大月書店側が、特に私の労働者性に焦点を当てた主張を展開した理由としては、団体交渉となれば、民族差別などが問題とならざるを得ないために、それを回避し、会社のメンツを守るためだと考えられます。
 
 今後の手続きとしては、中央労働委員会に再審査を請求するか、地方裁判所に行政訴訟を起こすかという二つの道があります。
 
 不当な棄却命令が出たところで、今後も闘い抜いていく決意に変わりはありません。それどころか、ますます闘う決意を強くしております。今後とも、ご支持のほどをよろしくお願いいたします。

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by BeneVerba | 2014-08-16 17:43 | 情報 | Trackback | Comments(0)
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 大月書店不当労働行為事件は、地方労働委員会にて、七月二八日に双方が最終準備書面を提出し、後は判断を仰ぐばかりとなりました。それに先立つ審問においては、大月書店社長中川進に反対尋問を行い、主張の矛盾点を明らかにすることができました。

 例えば、私に民族差別・思想差別を働いた当時の担当編集者岩下結が、翻訳者の訳文に口出しするタイプであることを明らかにできたことなどです。他にも、組合の仲間の質問に答えて、中川が思わず『ウォール街を占拠せよ——はじまりの物語』が売れていたら、私との次の契約もあったと答える場面もありました。

 私が大月書店と争議を構えることにしたのは、お金が目的ではありません。もし、お金が目的だったら、朝鮮民族としてのプライドを捨てて、「反原連批判をやめよ、日の丸批判をやめよ」という岩下の指示に従い、二冊目の契約を得ていたことでしょう。

 しかし現実には、争議を闘い続けて、お金が減る一方なのです。闘いを継続するには、資金が必要です。心苦しくも、私は、皆様方にカンパのお願いをしなければなりません。

 翻訳者が出版社に団体交渉を挑むのは、前代未聞の事態だといわれます。大月書店は当初、私たちの組合の要求書に答えて、付随的な条件こそ違ったものの、団交に応じる旨回答していました。その点を地労委でも訴えたのですが、不本意にも大月書店側の主張を飲む形で、団交拒否(不誠実団交)以外にも、私が労組法上の労働者であるか否かも争点とされました。

 この点を理解するのに、決め手となるのは「労働者」概念です。私たちの組合では、川口美貴『労働者概念の再構成』を参考にして、翻訳者も労働者であると堂々と主張しています。この主張が行政委である労働委員会で認められるなら、労働者の概念を拡張することになると考えています。

 この闘いは、勝ち目が薄くとも闘わざるを得ない闘いであり、負けられない闘いです。八月中にも労働委員会の決定が出るとされています。どんな結果が出ようとも、民族差別を受けたという当初の怒りを寸毫も忘れることなく、闘い続けていきたいと思います。

 何卒、ご支援のほどよろしくお願い申し上げます。


▼カンパのお願い
郵便振替
口座名義:芦原省一
口座記号:01710-5-72665

店名:一七九
預金種目:当座
口座番号:0072665
*ゆうちょ銀行以外から振り込む場合

9/2の追記
 なお、上記の郵便振替口座に振り込まれたカンパは、私が寄付を募りながら活動する「オンライン上の無償の翻訳者」であることもあり、福岡地区合同労働組合とは独立会計ですが、組合に対して収支報告をすることで、公正さを維持いたします。

by BeneVerba | 2014-08-09 11:26 | 情報 | Trackback | Comments(0)
 以下の画像をクリックして、アマゾン・ドット・コム社のアフィリエイト経由で買うと、ごくわずかなお金が私に入ります。もし、ほしい商品があれば、ぜひこのページ経由での購入をお願いいたします。
 なお、アフィリエイトを導入するに至った経緯については、以前のブログ記事「寄付のお願い及び大月書店との係争について」をお読みください。






















by BeneVerba | 2013-04-23 01:35 | 情報 | Trackback | Comments(1)
 私は、『ウォール街を占拠せよ――はじまりの物語』の翻訳者として起用される以前から、インターネットで寄付を募ることを考えていました。稼ぐためにではなく、インターネットでの翻訳活動を自律したものとして維持するためにです。外国語で書かれた記事を翻訳することは、その記事を読むのに比べて、はるかに多くの時間がかかります。さっと読めるような記事でさえ、いざ日本語に訳してみると結構手間がかかるものです。自分の生活から、翻訳に必要な時間と労力を割いてもよい、と思えるだけの何かが必要でした。

 二〇一一年の一〇月から一一月にかけて、「ウォール街を占拠せよ(OWS)」運動がもっとも慌ただしい展開を見せていた頃に、この運動に関連する文書を立て続けに翻訳しながら、感じていたことが、いくつかありました。そのうちの一つは、この先もこの動きに付き合っていくことになるのだろうということ。もう一つは、翻訳活動が明らかに実生活を犠牲にしているということでした。

 その当時に、ブログなどで書いたりしませんでしたが、翻訳に時間を取られるあまりに、いくつかの大切な案件をしくじっていました。それにまたインターネットで翻訳を公開することには、いくつかの危険も伴っていました。

 人々と共有したいと思う文書を翻訳し公開するのに、インターネットは非常に適したメディアだと思います。しかし、いくらインターネットで広く読まれた翻訳であっても、後で活字による翻訳が現れると、そちらの方が「正典」と見なされかねません。

 また、私が既に翻訳を発表している文書を、他の誰かが別に訳すことになった際に、その人が私の翻訳をこっそり参照しつつ、そのことには言及しなかったとしても、それを防ぐ手だてはありません。以前に、中野真紀子氏がオンラインで発表していた翻訳を、早尾貴紀氏が剽窃したとして、中野氏が抗議したことがありました。インターネットで翻訳を公開することには、無報酬かつ無記名の下訳係として利用される危険性が付きものなのです。

 上述のような理由ゆえに、その後『はじまりの物語』を翻訳することになったのは、喜ばしいことでした。時々翻訳書を出せるのなら、インターネットで世界の社会運動を紹介するという私の仕事を、側面から支えるものになるだろう、と考えたのです。それに加え、『はじまりの物語』を翻訳する中で、OWSについて、また二〇一一年に起きた地球規模の運動について、知見を深めることもできました。


 しかし、やがて暗転がやって来ます。

 『はじまりの物語』の出版後に、次に翻訳する本をどうするかについて、大月書店との間でやりとりがありました。それは友好的かつ前向きなもので、その際に翻訳の候補として数冊の書籍が挙げられていました。しかし、私が、脱原発運動における日の丸の容認などを批判していることについて、大月書店側は否定的な態度を取り始めました。

 大月書店が『はじまりの物語』の翻訳を打診してきたのは、二〇一二年の初頭ですので、私が、それ以前に、ブログなどでそうした傾向を批判してきたことを知っていたはずです。にもかかわらず、最終的には、ある一冊の本の翻訳者として起用することを断られました。

 私が、脱原発運動における日の丸の容認や右翼との共闘に反対するのは、思想的な理由だけに基づくものではありません。もう一つの理由としては、私が韓国籍だった祖父(故人)を持つ日本国籍者として生まれたことが挙げられます。そして、大月書店側には、その両方の理由を伝えていました。私にとって、日の丸は、私のような人々を殺し、犯し、虐げ、支配してきた(そして、今もそうしている)旗です。

 私は、そうした理由に基づき、脱原発運動の中の日の丸は全く容認できないし、批判を控えることはできないと伝えました。ですが、大月書店は私の首都圏反原発連合などへの「罵倒」を問題にし、「出版はビジネス」だとして、先に述べた書籍の翻訳者として私を起用することを拒否したのです。

 日本も批准している「国際人権規約B規約」は、その第二七条において、マイノリティの権利を定めています。また、一九九二年に国連で採択された「マイノリティの権利宣言」では、より全面的にマイノリティの権利が謳われています(日本政府による朝鮮学校の無償化からの適用除外や、今まさに各地方自治体に広がりつつある、朝鮮学校への補助金打ち切りといった差別政策は、こうした権利を侵害するものです)。
国際人権規約B規約
第二七条
 種族的、宗教的又は言語的少数民族が存在する国において、当該少数民族に属する者は、その集団の他の構成員とともに自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利を否定されない。

マイノリティの権利宣言
第四条
 マイノリティに属する人々は、個人として、また当該集団の他の成員たちと共同して、いかなる差別もなしに、この宣言に定める権利を含めた、その諸権利を行使することができる。

 マイノリティの権利は保障されており、民族的なアイデンティティを持つことは人権の一つです。私は、国籍としては日本国籍ですが、自分の中にある朝鮮半島とのつながりも、とても大切なものです。

 私は、脱原発運動に携わりつつ、日の丸の容認などの誤った動きに反対してきました。私が、脱原発デモなどに出かける時には、崖から飛び降りるような決意を必要とします。なぜなら、そうした抗議の現場に行くと、必ずと言っていいほど日の丸があり、ほとんど全ての人がそれを容認してしまっているからです。

 脱原発運動における日の丸や右翼を容認することは、「朝鮮人や中国人といったマイノリティよりも、日の丸や右翼の方が大切だ」と宣言しているのに等しいのです。そのような脱原発運動は、解放の場ではなく抑圧の場となっており、言いたいことを言う場であるよりも、はるかに言いたいことが言えない場になっています。現在の脱原発運動は、根深い日本人中心主義に陥っています。

 脱原発デモを妨害するために、在特会や右翼がやって来ますが、デモの中にも日の丸が掲げられるなら、私の居場所はどこにもなくなります。私にとっては、どちらも恐怖の対象ですが、脱原発運動の中に日の丸があることは、後ろから撃たれるようなものです。

 私が、こうして自分のプライバシーの一部(もちろん一部に過ぎません)を、状況に強いられつつも、明らかにすることを決めたのは、私のものであれ、誰のものであれ、マイノリティとしてのアイデンティティを社会が受け入れることは、当たり前のことだと考えるからです。しかし、日本社会は、全くのところ、多様なエスニシティを持った人々や、その他のマイノリティたちが社会の中に存在することを認めていません。そうであるならば、変わらなければならないのは私や私たちではなく、日本社会の方です。そして、私はそれを変えようとしているのです。

 大月書店に対しては、加入している労働組合を通じて、昨年から団体交渉を要求していますが、まだ団交は行われていません。私は、この争議は契約関係を争うのみならず、自らの命と尊厳を賭けた闘いだと認識しています。

 それにまた、この闘いは、現在の日本のファシズム状況との闘いでもあると考えています。非常事態を理由として、脱原発以外の重大な問題が棚上げされてしまい、その脱原発運動においても日の丸や右翼が跋扈し、これまで社会運動を担ってきた側も、それを受け入れてしまっているという状況です。私は、こうした傾向を「下からのショック・ドクトリン」とか「自発的なショック・ドクトリン」と呼んでいます。したがって、私が告発しているのは、大月書店だけではありません。

 寄付を募る目的は、冒頭に述べたように、翻訳活動を持続的に続けてゆける状態を維持することです。しかしながら、もし、みなさんが、寄付という形で私を支援してくれるのなら、翻訳を通して、インターネットで世界の社会運動を紹介していくという活動に対してのみならず、大月書店との争議に対しても、大きな支援となります。

 私の活動を支援していただけるのなら、寄付のご検討をよろしくお願いいたします。


▼ 寄付の方法と寄付に対する考えなど

 寄付には二つの方法があります。一つは郵便振替による寄付、もう一つはChari-boという募金代行サービスを使った寄付です。しかし、Chari-boは「システム利用料」として、「最大で20%」をさっ引くとのことなので、郵便振替口座への寄付の方を強くお勧めします。

 寄付は、個別の翻訳ないしは文章ではなく、私の翻訳活動、著述活動の全体に対して寄付されるものとします。また、寄付の際にお寄せいただいた意見があれば、それらを参考にいたしますが、何を翻訳し、何を書くかという判断は私にあるものとします。また、寄付者からお寄せいただいた意見は平等なものと見なし、寄付金の多寡によって、軽重を計ることはしないものとします。

 また、アマゾン・ドット・コム社のアフィリエイトを、導入することにしました。導入については迷いもありましたが、アフィリエイトを採用する側が、商品を選べることなどを考慮して決めました。書籍を購入する際に、利用していただけると助かります。他には、もちろん『ウォール街を占拠せよ――はじまりの物語』を購入することも、私への助けとなります。


▼ 郵便振替
口座名義:芦原省一
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by BeneVerba | 2013-03-31 21:37 | 情報 | Trackback(1) | Comments(7)
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 いつ頃からかは忘れたが、おそらくは『ウォール街を占拠せよ/はじまりの物語』を訳していた期間に、これまでに発表した「ウォール街を占拠せよ」(OWS)関連の翻訳を基本的に全て見直して、PDFとして配布することを考え始めた。もちろんOWSは『はじまりの物語』にも書かれているように、現在も進行し、発展している運動である。同書中の登場人物ベッツィ・フェイギンの言葉を借りれば、「これは、はじまり――いえ、はじまりですらない。これは今も続いている。急速に発展していってる」ということなのだ。

 とはいえ、もしくはそれだけに、ある程度の期間を区切るのならば、そうした試みには記録としての意味があるはずだ。例えば、OWSが始まってからの一年間、あるいは今年のメーデーまでの文書に限るなど。昨年九月一七日以前のドキュメントを入れることも考えられる。そうすれば、OWSの初期の動向を示すことができるはずだ。また、時系列表のようなものや解説(訳註になるかコラムのようなものになるかわからないが)を、加えることも考えられる。それに写真も入れたい。

 こじつけかもしれないが、OWSが流動的な運動体であるのなら、その翻訳もそうであって良いのではないか?これ以上変更することはないと明言していた、ナオミ・クラインのズコッティ公園でのスピーチ「ウォール街を占拠せよ:今もっとも重要なこと」の訳文も見直すつもりだ。読者がそのPDFを読んで、OWSの最初の一年間(これは厳密な区切りではない)がわかるような小冊子にしたい。

 配布するPDFのライセンスとしてはクリエイティブ・コモンズを考えているが、これはもう少し考えてみる必要がある。なんにせよ、まずおそらくはブログでの更新が最初となるだろう。それらが一通り済んだ段階で、PDFとして配布するという手順になるはずだ。

 私が先に進むためにも、おそらくそれは必要なことだ。




by BeneVerba | 2012-10-24 16:42 | 情報 | Trackback | Comments(0)
e0252050_14114414.jpg 明日九月二八日、私が初めて翻訳を担当した本『ウォール街を占拠せよ/はじまりの物語』(原題「Occupying Wall Street: The Inside Story of an Action that Changed America」)が大月書店から発売される。この運動の最初の二ヵ月間を中心に、数十名の運動の当事者たちがウォール街占拠について綴った本だ。ただし、一部の地域では、来月一日に配本されるそうだ。本来ならOWSの一周年記念に合わせて発売したかったのだが、出版のスケジュールに不慣れなせいもあり、ぎりぎりまで訳文を練っていたためにこの時期の発売となった。


 序文にも書かれているように、本書はまさしくドキュメントであり記録である。編集者氏と相談の上、原書にはない写真を大々的に使うことに決めたのもそのせいである。

 昨年九月一七日以前のブルームバーグヴィルというニューヨーク市長への抗議の占拠から、『アドバスターズ』からの呼びかけを受けて集まった人々が、準備期間を経てついに最初のジェネラル・アセンブリーを開く感動的な場面まで、あるいはメディアの注目も集まっていた一〇月から一一月までに起きたブルックリン橋での大量逮捕、「清掃」にかこつけた最初の排除の企て、そして、一一月一五日の強制排除まで迫真の記述が続いている。こうした部分は世界的な革命の年であった昨年二〇一一年の「インサイド・ストーリー」としての記録性を持つとともに、その高揚を伝えるものである。

 一方で、ジェネラル・アセンブリー、人民図書館、人民食堂、広報作業部会、法務作業部会、POC(有色人)作業部会など、運動内部の重要な活動についても具体的に書かれている。特にジェネラル・アセンブリーとPOC作業部会についての記述は、占拠運動に興味がある人にこそ読んでほしい章だ。前者からは水平的で合議的な、合意中心の意志決定がどのようなものであるのかが、後者からは「占拠」という行為の持つ皮肉な問題性とマイノリティの問題が対抗運動にとって重要な課題であることを知ることができるはずだ。

 原書を最初に読んだ時に感じたのは、この本からは複数の声が聞こえてくるということだった。本書を翻訳する作業は、そうした無数の声を聞きとりながら、それを損なわずに文体的な統一をはかるというなかなか困難なものだった。それがうまくいったかどうかは読者の判断に委ねたいと思う。

 実際この本は、当事者たちの筆に拠るものながら、客観的な記述を保っている。それにまた、ズコッティ公園(この本の中で運動内の呼び名である「リバティ広場」ではなく、この正式名称が用いられているのもそうした姿勢の表れではないだろうか)内部の東端と西端の対立に代表される、運動内部の緊張についても脚色なく記している。


 特に最初の章に書かれているように、またoccupywallst.orgも書いているように、昨年は地球規模の革命の年であった。「アラブの春」と呼ばれる中東での運動はむろんのこと、橋下市長が支配する大阪と比べられるようになったウィスコンシン州の抗議、もう一つの占拠運動であるスペインのM15運動など、世界中で反資本主義的な抗議の連鎖が続いた(ナオミ・クラインの表現を借りるなら「飛び跳ね」)。

 三・一一の原発震災を受けて、脱原発デモが起こり始めた日本もそうした文脈の中にあるのかもしれない。この本を翻訳する仕事の話を大月書店からもちかけられた時に頭の中にあったのは、単なる輪入ではない翻訳は可能か、なんとか占拠運動と脱原発デモを結びつけられないかということだった。だが、世界の運動にあって、今の脱原発運動に欠けているのは国家と資本の力に向かい合う視点である。

 この本の著者たちがおそらくは確信し、またこの運動の参加者でもある解説の高祖岩三郎氏と私が訳者あとがきで強調しているのは、OWSが現在も継続中であり、これからも何らかの形で続いていくだろうということだ。原発を止めても廃炉のプロセスがあり、放射能の影響も残り続ける日本でもまた運動は続いていくだろう。私が読者に知ってほしいのは上述のような視点である。

 とはいえ既にこの本は私の手を離れている。読者がどういう意味を読み込もうとそれは読者の自由であるし、その自由を確保することが訳者の仕事だと考えている。


 最後になったが、私がこの本の翻訳を担当することができたのも、このブログを読んで支持を与えてくれる読者のみなさんのおかげだと考えている。感謝したい。どうもありがとう。今後は、今回この本を訳した時に身に付けた技術や厳しさを反映して、引き続き情報や意見をオンライン上で発信していくつもりだ。

by BeneVerba | 2012-09-27 14:10 | 情報 | Trackback | Comments(0)
 現在利用している無料ブログサービスの簡素なアクセスログだけから判断しても、「首都圏反原発連合の面々との対話」として掲載したTwitterからの抜粋が、よく読まれている。

 もしそうであるのなら、以前に書いた以下の拙い記事が、ひょっとして読者が脱原発運動の方向性について考える機会を提供するかもしれない。中には力んで書いた余りに、今となっては別の書き方をしたい文章もある。リンク集的に提示することで紹介したい。



 しかし、その後わかったことだが、「対話」に次いで、このエントリのみが読まれており、リンクをたどって他の文章を読む人は少ない。そこで更新に当たって、インターネット上におけるリソースを少し追加することにした。

 いくつかの事実を確認しよう。

 「従軍慰安婦」制度は実在した。それを否定する行為は、被害者のハルモニ(おばあさん)たちの尊厳を傷付けるものである。そして「従軍慰安婦」制度はまた、民族蔑視と女性蔑視に成り立っていた。それゆえにまた、外国籍の人々の尊厳と女性の尊厳を傷付けるものでもある。原発による様々な被害と同様に、それは人権の問題である。

 脱原発は可能である。日の丸と歴史修正主義を脱原発運動に持ち込むことで、脱原発が可能になるわけでは全くない。そうすることで、脱原発運動がその目標に向かって前進するわけではない。日の丸も歴史修正主義もない脱原発運動を目指すことは可能であるだけではなく、合理的な判断であり、倫理的な義務である。


*7/14に加筆

by BeneVerba | 2012-07-08 00:17 | 情報 | Trackback | Comments(0)
 先週に、ユーチューブのアップロード上限が緩和されたため、以前に二分割で上げていた昨年一〇月のジジェクのスピーチの全体を一本の動画としてアップロードすることができた。

 読者は、複数のエントリがあるために混乱してしまうかもしれない。ここで、少しだけ各エントリを解説しておく。


翻訳:スラヴォイ・ジジェク - 民主主義と資本主義の結婚は終わった [部分訳]
 occupywallst.org にスピーチの一部について、動画と書き起こしが上がっていたのを元に翻訳を付けたもの。最初にして不完全な翻訳。

翻訳:スラヴォイ・ジジェク - 民主主義と資本主義の結婚は終わった
 元々は、上述の書き起こしを Impose Magazine の書き起こしで補って全体を翻訳したもの。しかし、そのどちらも不完全なため、結局インターネット上で手に入るあらゆるリソースを使って、スピーチを再現した。以前は「補完版」としていたが、これがもっとも完成されている。

動画:スラヴォイ・ジジェク - 民主主義と資本主義の結婚は終わった
 最初に述べたように、これが最新のスピーチ動画。字幕として使用したテキストもついでに載せてある。




by BeneVerba | 2012-05-16 07:51 | 情報 | Trackback | Comments(0)
 主に自分のためのメモ。これらの翻訳は近日中に再チェックする予定。ただし、日数を取られそうな私事もあり、はっきりとした日付はわからない。なるべく早く、再チェックし訳文を向上させたい。

11/10の追記:
 翻訳のための時間はとれていないが、上記エントリを地道に再チェック中(下から順番にやっている)。既にお気づきかもしれないが、Ollieさんの助けを借りて、ジジェクのアルジャジーラでのインタビューの書き起こしが進行中。以上お知らせまで。

  You might have noticed, by the help of Ollie, transcript of Slavoj Zizek's interview on Al Jazeera English is in progress. FYI. Accomplishment is approaching. It is worth reading. You can join us, if you want to.

by BeneVerba | 2011-11-08 18:41 | 情報 | Trackback | Comments(0)