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 私は、『ウォール街を占拠せよ――はじまりの物語』の翻訳者として起用される以前から、インターネットで寄付を募ることを考えていました。稼ぐためにではなく、インターネットでの翻訳活動を自律したものとして維持するためにです。外国語で書かれた記事を翻訳することは、その記事を読むのに比べて、はるかに多くの時間がかかります。さっと読めるような記事でさえ、いざ日本語に訳してみると結構手間がかかるものです。自分の生活から、翻訳に必要な時間と労力を割いてもよい、と思えるだけの何かが必要でした。

 二〇一一年の一〇月から一一月にかけて、「ウォール街を占拠せよ(OWS)」運動がもっとも慌ただしい展開を見せていた頃に、この運動に関連する文書を立て続けに翻訳しながら、感じていたことが、いくつかありました。そのうちの一つは、この先もこの動きに付き合っていくことになるのだろうということ。もう一つは、翻訳活動が明らかに実生活を犠牲にしているということでした。

 その当時に、ブログなどで書いたりしませんでしたが、翻訳に時間を取られるあまりに、いくつかの大切な案件をしくじっていました。それにまたインターネットで翻訳を公開することには、いくつかの危険も伴っていました。

 人々と共有したいと思う文書を翻訳し公開するのに、インターネットは非常に適したメディアだと思います。しかし、いくらインターネットで広く読まれた翻訳であっても、後で活字による翻訳が現れると、そちらの方が「正典」と見なされかねません。

 また、私が既に翻訳を発表している文書を、他の誰かが別に訳すことになった際に、その人が私の翻訳をこっそり参照しつつ、そのことには言及しなかったとしても、それを防ぐ手だてはありません。以前に、中野真紀子氏がオンラインで発表していた翻訳を、早尾貴紀氏が剽窃したとして、中野氏が抗議したことがありました。インターネットで翻訳を公開することには、無報酬かつ無記名の下訳係として利用される危険性が付きものなのです。

 上述のような理由ゆえに、その後『はじまりの物語』を翻訳することになったのは、喜ばしいことでした。時々翻訳書を出せるのなら、インターネットで世界の社会運動を紹介するという私の仕事を、側面から支えるものになるだろう、と考えたのです。それに加え、『はじまりの物語』を翻訳する中で、OWSについて、また二〇一一年に起きた地球規模の運動について、知見を深めることもできました。


 しかし、やがて暗転がやって来ます。

 『はじまりの物語』の出版後に、次に翻訳する本をどうするかについて、大月書店との間でやりとりがありました。それは友好的かつ前向きなもので、その際に翻訳の候補として数冊の書籍が挙げられていました。しかし、私が、脱原発運動における日の丸の容認などを批判していることについて、大月書店側は否定的な態度を取り始めました。

 大月書店が『はじまりの物語』の翻訳を打診してきたのは、二〇一二年の初頭ですので、私が、それ以前に、ブログなどでそうした傾向を批判してきたことを知っていたはずです。にもかかわらず、最終的には、ある一冊の本の翻訳者として起用することを断られました。

 私が、脱原発運動における日の丸の容認や右翼との共闘に反対するのは、思想的な理由だけに基づくものではありません。もう一つの理由としては、私が韓国籍だった祖父(故人)を持つ日本国籍者として生まれたことが挙げられます。そして、大月書店側には、その両方の理由を伝えていました。私にとって、日の丸は、私のような人々を殺し、犯し、虐げ、支配してきた(そして、今もそうしている)旗です。

 私は、そうした理由に基づき、脱原発運動の中の日の丸は全く容認できないし、批判を控えることはできないと伝えました。ですが、大月書店は私の首都圏反原発連合などへの「罵倒」を問題にし、「出版はビジネス」だとして、先に述べた書籍の翻訳者として私を起用することを拒否したのです。

 日本も批准している「国際人権規約B規約」は、その第二七条において、マイノリティの権利を定めています。また、一九九二年に国連で採択された「マイノリティの権利宣言」では、より全面的にマイノリティの権利が謳われています(日本政府による朝鮮学校の無償化からの適用除外や、今まさに各地方自治体に広がりつつある、朝鮮学校への補助金打ち切りといった差別政策は、こうした権利を侵害するものです)。
国際人権規約B規約
第二七条
 種族的、宗教的又は言語的少数民族が存在する国において、当該少数民族に属する者は、その集団の他の構成員とともに自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利を否定されない。

マイノリティの権利宣言
第四条
 マイノリティに属する人々は、個人として、また当該集団の他の成員たちと共同して、いかなる差別もなしに、この宣言に定める権利を含めた、その諸権利を行使することができる。

 マイノリティの権利は保障されており、民族的なアイデンティティを持つことは人権の一つです。私は、国籍としては日本国籍ですが、自分の中にある朝鮮半島とのつながりも、とても大切なものです。

 私は、脱原発運動に携わりつつ、日の丸の容認などの誤った動きに反対してきました。私が、脱原発デモなどに出かける時には、崖から飛び降りるような決意を必要とします。なぜなら、そうした抗議の現場に行くと、必ずと言っていいほど日の丸があり、ほとんど全ての人がそれを容認してしまっているからです。

 脱原発運動における日の丸や右翼を容認することは、「朝鮮人や中国人といったマイノリティよりも、日の丸や右翼の方が大切だ」と宣言しているのに等しいのです。そのような脱原発運動は、解放の場ではなく抑圧の場となっており、言いたいことを言う場であるよりも、はるかに言いたいことが言えない場になっています。現在の脱原発運動は、根深い日本人中心主義に陥っています。

 脱原発デモを妨害するために、在特会や右翼がやって来ますが、デモの中にも日の丸が掲げられるなら、私の居場所はどこにもなくなります。私にとっては、どちらも恐怖の対象ですが、脱原発運動の中に日の丸があることは、後ろから撃たれるようなものです。

 私が、こうして自分のプライバシーの一部(もちろん一部に過ぎません)を、状況に強いられつつも、明らかにすることを決めたのは、私のものであれ、誰のものであれ、マイノリティとしてのアイデンティティを社会が受け入れることは、当たり前のことだと考えるからです。しかし、日本社会は、全くのところ、多様なエスニシティを持った人々や、その他のマイノリティたちが社会の中に存在することを認めていません。そうであるならば、変わらなければならないのは私や私たちではなく、日本社会の方です。そして、私はそれを変えようとしているのです。

 大月書店に対しては、加入している労働組合を通じて、昨年から団体交渉を要求していますが、まだ団交は行われていません。私は、この争議は契約関係を争うのみならず、自らの命と尊厳を賭けた闘いだと認識しています。

 それにまた、この闘いは、現在の日本のファシズム状況との闘いでもあると考えています。非常事態を理由として、脱原発以外の重大な問題が棚上げされてしまい、その脱原発運動においても日の丸や右翼が跋扈し、これまで社会運動を担ってきた側も、それを受け入れてしまっているという状況です。私は、こうした傾向を「下からのショック・ドクトリン」とか「自発的なショック・ドクトリン」と呼んでいます。したがって、私が告発しているのは、大月書店だけではありません。

 寄付を募る目的は、冒頭に述べたように、翻訳活動を持続的に続けてゆける状態を維持することです。しかしながら、もし、みなさんが、寄付という形で私を支援してくれるのなら、翻訳を通して、インターネットで世界の社会運動を紹介していくという活動に対してのみならず、大月書店との争議に対しても、大きな支援となります。

 私の活動を支援していただけるのなら、寄付のご検討をよろしくお願いいたします。


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 寄付には二つの方法があります。一つは郵便振替による寄付、もう一つはChari-boという募金代行サービスを使った寄付です。しかし、Chari-boは「システム利用料」として、「最大で20%」をさっ引くとのことなので、郵便振替口座への寄付の方を強くお勧めします。

 寄付は、個別の翻訳ないしは文章ではなく、私の翻訳活動、著述活動の全体に対して寄付されるものとします。また、寄付の際にお寄せいただいた意見があれば、それらを参考にいたしますが、何を翻訳し、何を書くかという判断は私にあるものとします。また、寄付者からお寄せいただいた意見は平等なものと見なし、寄付金の多寡によって、軽重を計ることはしないものとします。

 また、アマゾン・ドット・コム社のアフィリエイトを、導入することにしました。導入については迷いもありましたが、アフィリエイトを採用する側が、商品を選べることなどを考慮して決めました。書籍を購入する際に、利用していただけると助かります。他には、もちろん『ウォール街を占拠せよ――はじまりの物語』を購入することも、私への助けとなります。


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by BeneVerba | 2013-03-31 21:37 | 情報 | Trackback(1) | Comments(7)




目覚めゆく広場――15M運動の一年
原題:El Despertar de Les Places - Un Any de 15M
監督:リュック・グエル・フレック,ジョルディ・オリオラ・フォルク
制作:TransformaFilms,2012年,バルセロナ (45分)
日本語字幕:芦原省一海老原弘子
URL:http://www.youtube.com/watch?v=xy_8NXEMqw8


 2011年5月、「インディグナドス(怒れる者たち)」と名づけられた民衆による抗議活動が、瞬く間にスペイン全土に広がった。この一連の抗議活動は、5月15日(15 de Mayo)に行われたデモが出発点となったことから、15M(キンセ・エメ)運動とも呼ばれている。とりわけ「広場の占拠」という独特の抗議方法は国外からも注目を集め、約4ヶ月後に「ウォール街を占拠せよ」として、大西洋の反対側に再び姿を現すことになった。

 地方選挙戦の真っ只中に始まったことから、当初15M運動は、当時の社会労働党政権に対するスペインの人々の不満の表れとして報道された。しかしながら、「今すぐに真の民主主義を!私たちは政治家や銀行家の手中にある商品ではない」というスローガンに明白なように、その本質は金融権力に乗っ取られた議会制民主主義モデルに対する批判であった。

 事実、広場を占拠するというアイデアは、新しい民主主義のかたちを探るために、参加型の直接民主主義を実践する場を確保するという必要性から生まれている。こうしてスペイン各地に現れた「キャンプ」の中でも、首都マドリッドのプエルタ・デル・ソル広場に並ぶ規模を誇ったのが、バルセロナ市中心に位置するカタルーニャ広場のバルセロナ・キャンプであった。

 2012 年5 月、カタルーニャ広場占拠の参加者6人が一同に会するところから始まる『目覚めゆく広場―― 15M運動の一年』は、バルセロナの怒れる者たちの足跡を辿るドキュメンタリーであり、一年後の視点から15M運動を分析する試みだ。バルセロナ・キャンプの誕生から、州警察による強制排除や州議会包囲といった出来事を経て、各地区での集会へと変容するまでが描かれている。

 広場の占拠は姿を消してしまったが、スペイン社会を揺るがす変革の波は今もなお続いている。15M運動が未曾有の危機に苦しむスペインの転換点となったことに疑いの余地はないだろう。

CC-By-NC-SA
www.transformafilms.org



連絡:TransformaFilmsJP(at)gmail.com


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*上記フライヤーのPDFはここからダウンロード可。





by BeneVerba | 2013-03-31 21:16 | 動画 | Trackback | Comments(0)
ウォール街を占拠せよ
#OCCUPYWALLSTREET
2011年07月13日 - アドバスターズ
原文:http://www.adbusters.org/blogs/adbusters-blog/occupywallstreet.html

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 さあ、そこの九万人の解放者、反逆者、急進派[1]の諸君!

 未来にとって良い前兆となる、革命戦術の世界規模の移行が今まさに進行中だ。タハリール広場とスペインの野営地(acampadas)の融合[2]である、この真新しい戦術はどのようなものなのか?その精神は、次の引用によくとらえられている。
 反グローバリゼーション運動は、道のりの第一歩でしかなかった。振り返ってみると、我々のモデルは、狼の一群のように体制を攻撃することにあった。そこには最高位の雄、つまり群れを率いる一匹の狼と、後ろからそれに従って行く人々とがいた。今やこのモデルは進化を遂げた。我々は、ひとまとまりの巨大な群がりとなった民衆なのだ[3]
  ――ライムンド・ヴィエホ、ポンペウ・ファブラ大学、バルセロナ、スペイン

 この新方式の美しさは、そして、この新戦術がエキサイティングなのは、その実践的な簡潔さにある。種々の物理的な集会で、ヴァーチャルな集まりで、私たちはお互いに語り合う。私たちは、自分たちのたった一つの要求[4]が、どんなものであるのかに焦点を合わせる。想像力を目覚めさせるような、そして、できることなら、未だ到来していないラディカル・デモクラシーへと、私たちを押し進めるような要求だ。私たちは外へと繰り出し、類のない象徴的な意義のある広場をぶんどって、我々のケツに賭けてその出来事を引き起こすのだ。

 私たちの民主主義をもっとも腐敗させている輩に対して、この新しき戦術を展開する時がやってきた。それはウォール街だ。金融におけるアメリカのゴモラ(罪悪の町)だ[5]

 九月一七日に、二万人の人々がロウアー・マンハッタンへと押し寄せて、テント、食堂、平和的なバリケードを設置し、数ヵ月の間ウォール街を占拠するのを見たい。いったんそうなれば、私たちは、一つの簡潔な要求を、多数の声で絶え間なく繰り返すことだろう。

 タハリール広場の抗議が成功した理由の大半は、「ムバラクは退陣せよ」という明快な最後通告を、エジプトの民衆が勝利するまで、いくどとなく繰り返したせいだった。このモデルに従うならば、私たちの簡潔な要求とは何に当たるのだろうか?

 これまでに私たちが聞いた中で、もっともエキサイティングな候補は、なぜアメリカの政治的な支配層が、現在では民主主義の名に値しないのかという、その核心を突いたものだ。私たちは、バラク・オバマに対して、ワシントンの私たちの代表者たちへマネーが与えている悪影響を根絶する任務を帯びた、大統領委員会を任命するよう要求する。今こそ「企業支配は民主主義ではない!」と声を上げる時だ。さもなくば私たちに望みはない。

 この要求は、現在の国民的な雰囲気をとらえていると思われる。なぜなら、ワシントンから腐敗を一掃することは、右翼であれ左翼であれ、全てのアメリカ人が切望するとともに、支持できるものであるからだ。私たち二万人規模の民衆が、ウォール街から私たちを追い払おうとする警察や州兵の試みに対して、数週間に渡って耐え抜けば、オバマも私たちを無視することができなくなるだろう。私たちの政府は、民衆の意志とワシントンのお金のどちらを選ぶのか、公然と強いられることになる。

 これはアメリカにおける全く新しい社会的変動のはじまりとなるかもしれない。ティー・パーティー運動を乗り越え、現在の権力構造に囚われる代わりに、世界中にある一〇〇〇のアメリカ軍基地の半分を廃棄することであれ、グラス・スティーガル法[6]を復活させることであれ、企業犯罪に対して三振法[7]を制定することであれ、我ら民衆が自らが望むものを獲得し始めるのだ。政治から金を引き離す大統領委員会という一つの単純な要求を皮切りに、私たちは、新しいアメリカのためのアジェンダを設定し始めるのだ。

 コメントを投稿し、お互いに助け合って、私たちのたった一つの要求がどんなものであるべきかについて、焦点を合わせてほしい。その次には、勇気を振り絞って、テントを携え、復讐の九月一七日にウォール街へと向かおう。



野性のために、
カルチャー・ジャマーズHQ




    訳註:
  1. 原文では「redeemers, rebels and radicals」となっている。「読者(reader)」とかけてあると思われ、また「r」で始まる単語が並べられている。こうした言葉遊びを訳すのは困難なため、無理な訳語を当て嵌ることは控えた。
  2. タハリール広場は、エジプトの首都カイロにある広場。二〇一一年初頭にムバラクを辞任に追い込んだエジプト革命において、中心的な役割を果たした。「スペインの野営地」とは、「ウォール街を占拠せよ(OWS)」に先だってスペインで起きた、15M運動のこと。
  3. 引用元は不詳だが、二〇一一年に起きた運動のあり方をよく表している。それは相互につながることによって、ひとまとまりでありながらも、それぞれの部分が自律しているような存在の様式である。また、バルセロナは、スペインの首都マドリッドと並ぶほど15M運動が高揚を見せた土地である。
  4. 文章全体に見られるように、「ウォール街を占拠」するというアイディアは、『アドバスターズ』誌が呼びかけた時点では、一つの要求に的を絞ることにこだわっていた。だが、実際に起きたのは、無数の要求があるような(それゆえに却って「要求がない」という非難を受けた)運動だった。
  5. ウォール街というアメリカの、そして世界の金融的な首都を標的に選んだこの運動は、いずれにせよ何らかの意味において、反資本主義的な性格と真の民主主義を求める志向を持っていた。
  6. 銀行業と証券業の分離を定めた法律。一九三三年に制定され、ビル・クリントン大統領期の一九九九年に無効化された。このことが金融危機を招いた要因の一つと考えられている。
  7. 重大な刑事犯罪を三回以上犯した人物に、より厳しい刑罰を与えることのできるアメリカ合衆国の州法。一九九三年にワシントン州で初めて制定された。




訳者コメント:
 「ウォール街を占拠せよ」運動を引き起こすことになる、『アドバスターズ』誌による呼びかけを新たに訳し直した。また、当初同誌のブログに掲載されていた画像も日本語版を作成してみた(現在は外されている模様)。

 ここに初めてウォール街を占拠するというアイディアが生まれたわけだが、それ以前に「アラブの春」があり、スペインの15M運動があったことをこの文書は伝えている。反資本主義的な性格と直接民主主義的な志向が既に現れている一方で、「一つの要求」にこだわるなど、後に実際に起きた運動とは異なる部分もある。

 なお、時間がないために、この記事の訳註やコメントは後で見直し、書き換える可能性があることをお断りしておく。

by BeneVerba | 2013-03-20 12:27 | 翻訳 | Trackback | Comments(0)
ゼネスト
General Strike
2011年12月01日 - ガヤトリ・スピヴァク
原文:
http://occupytheory.org/
http://occupiedmedia.us/2012/02/general-strike/


e0252050_865913.png ある都市の全労働者がその道具を捨て置き、特定の諸要求が応じられるまで労働を拒否する時、それはゼネストと呼ばれる。この考えを最初に思いついたのは、労働者の一員ではなかったが、反国家主義の信念を持っていた人々である、一九世紀のアナーキストたちである。ドイツの反動的軍隊に殺戮されたポーランドの革命思想家、ローザ・ルクセンブルグ(一八七一~一九一九年)は、一八九六年に始まり一九〇五年のとてつもないゼネストに終わった、ロシア帝国での大規模なゼネストを目撃した後に、ゼネストの概念を書き換えて、これを労働者(プロレタリアート)のためのものにした。政治的な左翼から右翼に転向したフランスの思想家、ジョルジュ・ソレル(一八四七~一九二二年)もまた、労働者に力を注ぎ込むための方法として、ゼネストを思い描いていた。

 アフリカ系アメリカ人の歴史家、社会学者であるW・E・B・デュボイス(一八六八~一九六三年)は、奴隷解放宣言直後の奴隷たちの大量脱走をゼネストとして記述した。なぜならば、奴隷制度が「黒人プロレタリアート」(綿産業ための農園労働者)に、通常の労働者として自らを形成することを許していなかったからだ。同じ時期に、インドの国民的解放運動家マハトマ・ガンジー(一八六九~一九四九年)が、再度ゼネストの定義を書き換えて、階級とは関係なしに、植民地支配を受けている民衆のためのものとし、そうして、ゼネストは労働者階級の運動から、市民的不服従とボイコットの政治の混成物へと転換された。彼は、それを「不服従」と呼んでいた。

 今日では、グローバリゼーションが、労働とはほとんど関係のない金融システム――不均衡な通貨による取引――を通して機能するために、グローバルな労働者たちは深く分断されている。この分断こそが、もう一度ゼネストを呼び起こすための理由である。その利益が絶えず上方へと流れ込んでいる、体制によって権利を剥奪された人々によって、ゼネストは既に呼び起こされようとしている。それらは銀行を救済するために流れ込み、医療や教育から、そしてそれらをもっとも必要としている場所から遠ざけられている。今やこのゼネストの再定義において、権利を剥奪された市民たちの集団――すなわち、九九%――として、労働者が力を合わせる機会を得たのだ。

 アントニオ・グラムシ(一八九一~一九三七年)は、国家による福祉制度から何の恩恵を受けていない人々や、国家において何の役割を果たしていない人々を、サバルタン――貧しい者たちの中でももっとも貧しい人々――として定義した。今日では、この話もまた書き換えられようとしている。我々が現在目撃しているのは、九九%のうち最大の部分である、中産階級のサバルタン化である。デュボイスとガンジーがかつて思い描いていたように、ゼネストは、古い時代のきっちりとした労働者/支配者の闘争を超える、強力な象徴となりつつある。まさにこの点において、心に留めおくべきゼネストのいくつかの特徴がある。

  1. ゼネストは、道義的に憤慨したイデオローグたちではなく、日常的な実際の不正義に苦しんでいる人々によって担われる。
  2. ゼネストは、たとえ国家の抑圧装置が、ストライキをする人々に多大なる暴力を振るったとしても、その定義から言って非暴力である。
  3. ゼネストは、一般的に言って、法律を改正するか書き直すことに力点を置いた諸要求からなる。すなわち、ロシアの労働者にとっての就業日の労働時間、解放奴隷にとっての合衆国憲法修正第一四条及び第一五条(実質的にそれらが問題となっていないならば)、ガンジーの時代における脱植民地化された法体系などである。

 もしゼネストと法制度の間のつながりを認識するならば、それが法的な改革を目指すものではなく、社会的、経済的な正義を要求するものだと気付くだろう。銀行への救済措置を禁止すること、財政への法的監査を設けること、富裕層に課税すること、教育を脱民営化すること、化石燃料と農業への助成金に手を付けること、などなど。法的な変革への強烈な参与とその実践は、正義を実現するための努力なのだ。そして、覚えておくべきことは、政党とは異なり、ゼネストの参加者たちは、実際にものごとが変化するまで、妥協する必要がないということだ。既に圧力は功を奏している。一一月には、五%の手数料を徴収しようとした、デビットカードに対して勝利を見た。

 ゼネストは常に、ある意味では「ウォール街」に対するものであり、より広い言い方では資本主義に対するものだった。しかし、革命もまた、個別の独裁者や王によって代表される、悪い体制に対抗するものであったために、「革命」という我々の概念も、武装闘争や暴力の行使、体制転覆と混同されている。ロシアではツァーだったし、中国では腐敗した封建制度とヨーロッパによる植民地支配だった。ラテンアメリカではラティフンディウム制だったし、フランスではブルボン家による君主制だった。アメリカではハノーヴァー家による君主制であり、後には奴隷所有制度だった。今日のアラブ世界では、チュニジアのベンアリであり、エジプトのムバラクである。

 対照的にも、占拠運動においては、ゼネストの精神はその中へと入り込んでおり、アメリカの市民的不服従の伝統と協働している。つまり、市民たちは規制撤廃された資本主義国家に抗しているのであって、特定の個人または体制に抗しているのではない。それゆえ、短期的には我々は、民衆ではなく、ビジネスと銀行に対して国家に責任を持たせている、法律を変えなければならない。そして、長期的には、正義への意志を生かしてゆく教育を確立し、育まねばならない。



訳者コメント:
 「ウォール街を占拠せよ(OWS)」運動においては、いくつかの自主的なメディアが現れたが、この「ゼネスト」というガヤトリ・スピヴァクの論考が掲載された雑誌『TIDAL』もその一つ(掲載されたのは二〇一一年一二月発行の第一号)で、同誌は「Occupy Theory, Occupy Strategy」をキャッチコピーにしている。

 スピヴァクは、ゼネストという概念の変遷をたどりながら、その現在的な意義を考察している。ここでは、単に労働者のみがゼネストを担う存在ではなく、彼女がグラムシから取り入れた用語に従えば、「サバルタン」たちがゼネストを担うとされる。

 OWSという特異な社会運動が発生した条件の一つとして、スピヴァクがここで述べているように、それまでマイノリティたちだけが経験していたような社会的な状態に、新自由主義の侵攻によって、中産階級に属する人々もまた置かれるようになったことがある。

 当然ながら、「九九%」としてまとめられることには、差別と抑圧の問題を隠蔽しかねないという問題がある。この点については、前半のみながら既に訳出したアンジェラ・デイヴィスのスピーチや、『ウォール街を占拠せよ――はじまりの物語』の特に「ポキュパイ」の章を参照されたい。

 なお、翻訳に当たっては、初出である『TIDAL』誌所載のものに基づいている(上記のリンクからPDFがダウンロードできる)が、同誌に掲載されたものは誤記が多いために、『The Occupied Wall Street Journal』のウェブサイトに掲載された同じ論考も適時参照した。




by BeneVerba | 2013-03-18 08:23 | 翻訳 | Trackback | Comments(0)
ニューヨーク州の「慰安婦」記念碑を記憶する決議
Memorializing a Memorial Monument in the State of New York that pays
tribute to those who have become known to the world as 'Comfort Women'
2013年01月29日 - ニューヨーク州議会上院
原文:http://open.nysenate.gov/legislation/bill/J304-2013


e0252050_1245154.jpg 一九三〇年代から第二次世界大戦の期間を通じて、アジアと太平洋における日本の植民地支配と戦時期占領の間に、およそ二〇万人の若い女性たちが、「慰安婦」制度という軍による強制的な売春行為を強いられたことに鑑み、

 二〇一二年六月一六日に、ニューヨーク州ウェストベリーにあるアイゼンハワー公園に、「慰安婦」制度の犠牲者たちに敬意を表し、記念するために、「慰安婦」記念碑が設置されたことに鑑み、

 この種のものとしては合衆国で二番目となるこの記念碑が、「慰安婦」たちが耐え忍んだ苦痛を象徴するとともに、「慰安婦」制度によって犯された人道に対する罪を思い起こさせるものであることに鑑み、

 歴史上の深刻な出来事に対する意識を高めるために設置された、ニューヨーク州内の歴史的な記念碑を評価することが、この立法機関の慣例であることに鑑み、

 地球上では二四〇万人の人々が常に人身売買の犠牲となっており、そのうちの八〇%が性的な奴隷として搾取されていると、国際連合が報告していることに鑑み、

 下記のように決議する。

 「慰安婦」として世界に知られるようになった人々に敬意を表する「慰安婦」記念碑を記憶するために、この立法機関はその審議を中断すること。

 この決議の複写を適切に作成し、コリア系アメリカ人公共委員会(KAPAC)クッファーバーグ・ホロコースト・リソース・センター(KHRCA) コリア系アメリカ人市民エンパワーメント(KACE)に送付すること。



訳者コメント:
 数ヵ月ぶりの翻訳。日本では今年の一月末に報道されたニューヨーク州議会上院による「慰安婦」記念碑に関する決議を和訳した。現在でもインターネットで閲覧できる記事としては、赤旗電子版による報道がある。一部を引用する。
米東部ニューヨーク州議会上院は29日、旧日本軍の「慰安婦」問題を記憶にとどめるとする決議を全会一致で採択しました。米国では2007年7月に連邦下院が「慰安婦」問題で日本政府に謝罪を求める決議を採択。州レベルで「慰安婦」に関係する決議が採択されるのは、カリフォルニア州議会が1997年8月に採択して以来2回目です。

 他に、中央日報の日本語版では、この決議案を主導したトニー・アヴェラ議員の「ニューヨーク州の上下院議員の相当数が日本の極右団体から醜悪な電子メール攻撃を受けました。慰安婦問題をよく知らなかった議員さえそのメールを見て背を向けました」という言葉が紹介されている。

 この決議を原題に従って訳すならば、「『慰安婦』として世界的に知られる人々に敬意を表するニューヨーク州の記念碑を記憶する決議」とでもなるだろうが、ここでは意図的により短く訳したことをお断りしておく。

 審議の様子は YouTube で動画を視聴でき、ニューヨーク州議会上院の公式サイトでは、議事録も公開されている。また、この決議文は CC-By-NC-ND で公開されている。なお、写真は Holley St. Germain さんが CC-By-NC-SA で公開しているもの。




by BeneVerba | 2013-03-17 23:11 | 翻訳 | Trackback | Comments(0)
 脱原発デモ向けのプラカードをネットプリントで配布します。セブンイレブンのマルチコピー機で、予約番号を入力することで印刷できます。全てA3サイズで、有効期限は3月16日までです。カラーと白黒がありますので印刷時には注意を。利用方法については、ネットプリントのサイトをご覧になるなどしてください。


脱原発運動を脱植民地化せよ!(A)
予約番号:23726279
e0252050_6365535.png

脱原発運動を脱植民地化せよ!(B)
予約番号:80407970
e0252050_637693.png

脱原発運動を脱植民地化せよ!(C)
予約番号:38119714
e0252050_6371739.png

原子力は差別の問題(A)
予約番号:44514239
e0252050_6373018.png

原子力は差別の問題(B)
予約番号:97700994
e0252050_6374431.png

日の丸も原発も命の犠牲(A)
予約番号:21715961
e0252050_638337.png

日の丸も原発も命の犠牲(B)
予約番号:23682249
e0252050_6381762.png

希望はゼネスト(A)
予約番号:06600512
e0252050_638347.png

希望はゼネスト(B)
予約番号:29728148
e0252050_6384392.png

ゼネストしかない(A)
予約番号:56574393
e0252050_639333.png

ゼネストしかない(B)
予約番号:67125915
e0252050_6392362.png


by BeneVerba | 2013-03-09 08:00 | Trackback | Comments(0)