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(合意に基づく政策決定における)不可能事をやってのける
Enacting the Impossible (On Consensus Decision Making) 2011年10月29日 - デヴィッド・グレーバー 原文:http://occupywallst.org/article/enacting-the-impossible/ 2011年8月2日に開かれた、「ウォール街を占拠せよ」がどういうものになるかについての最初の会合において、数十名の人々が車座になってボウリング・グリーンに座っていた。私たちが、ただいつの日にか存在すればいいと望んでいた社会運動のための自薦の「手続き委員会」が、重大な決定について熟慮を重ねていたのだ。私たちの夢は、「ニューヨーク総会(New York General Assembly)」を作ることにあった。私たちがアメリカ中に現れることを望んでいた、民主的な集会のモデルとなるものだ。しかし、そうした集会は、実際にはどのように運営されるものなのだろうか? 車座の中にいたアナーキストたちが、その時には常識外れなまでに野心的に見えた提案を行った。それらの集会もこの委員会と同じように運営すればいいじゃないか?――つまり合意によって。 それらは、控えめに言っても、とんでもない大ばくちだった。なぜなら、私たちが知る限りでは、そのようなものを上手くやってのけて運営した人など、それまでに誰もいなかったからだ。合意形成の過程は、これまで代表議会(spokes-councils)において成功を収めてきた――活動家たちが類縁性を持つ集団に分けられ、それぞれの集団が一人の代表者(spoke)によって代表されるというものだ――が、ニューヨーク市において期待されていたような大規模な集会では成功した例を知らなかった。ギリシアやスペインの全体集会においてすらそうした試みは企てられなかった。だが、合意こそが最も私たちの原則に適ったアプローチだった。そうして、私たちはその無謀な試みに乗った。 三ヶ月後の今アメリカ中で、大きなものから小さなものまで数百もの総会が、今や合意によって運営されている。決定は民主的に、投票なしで、全員の同意の下に行われている。世間一般の通念によれば、これは不可能なことだった。しかし、今や実際に起きていることなのだ――ちょうど愛や革命、そして生命それ自体といった他の説明不可能な現象が(言うなれば素粒子物理学の見地からすれば)起きているのと同じように。 「ウォール街を占拠せよ」によって採用された直接民主主義的な方法は、アメリカのラディカルの歴史において、深いルーツを持っている。それは公民権運動において、また民主社会のための学生たち(the Students for a Democratic Society)によって広く用いられたものである。だがその現在の形態は、アナーキズムそれ自身においてと同じくらいに、フェミニズムのような運動や(クエーカー教徒とネイティブ・アメリカンの両方を含む)精神的な伝統において培われたものなのだ。直接的な、合意の形成を基礎にした民主主義が、アナーキズムによって迎え入れられ、その名前と固く結びついている理由は、それがおそらくアナーキズムの最も根本的な原理がなんであるかを具体化しているからだ。子どものように扱われた人間が子どものように振る舞う傾向があるように、人間を成熟し責任を持った大人として振る舞うように励ますための方法とは、彼らが既にそうであるかのように取り扱うことなのだ。 合意は全会一致の投票方式ではない。「ブロック(block)」が意味するのは反対投票ではなく、拒否権の発動なのだ。それは、基本倫理原則の違反への提案を宣言する最高裁の調停のようなものだと思ってほしい――ただしこの場合、裁判官のローブはそれを着る勇気がある者全てのものなのだ。参加者はみな、自分にとって原則的な問題だと感じた時には、その場で即座に審議を止めることができることを知っている。それは、実際にそうすることがまれになるというだけでなく、より重要でない点における歩み寄りを容易にする結果をもたらすのだ。創造的な統合へ向かうための過程こそがその本質である。結局は、最終決定がどのようになされたのか――それは、ブロックのかけ声かもしれないし、多数派による挙手かもしれない――はより重要ではなくなり、合意の形成や再形成を促す役割において、全ての人がその一部を演じることができる、ということが重要になってくるのだ。 私たちが、論理によって、直接民主主義、自由、人間の連帯の原則に基づく社会は可能なのだと証明できることはおそらくないだろう。私たちは行動することによって、それを実際に示して見せることができるだけなのだ。アメリカ中の公園や広場で、人々は、実際に参加し始めることによってその目撃証人となっている。アメリカ人は、自由や民主主義こそ私たちの根本的な価値観だと、自由と民主主義への愛こそが私たちを一つの人民(people)として規定するものだと教えられて育つ――にもかかわらず、微妙ではあるが一定の変わらないやり方で、本当の自由と民主主義は決して真に実在しないのだと教えられる。 私たちがこの教えの誤りに気付いた瞬間、私たちはこう訊ね始めるのだ。他にいくつの「不可能な」事がらを私たちはやってのけることができるのだろう、と。その時から、この場所で私たちは不可能をやってのけ始めるのだ。 この記事は、「占拠済みウォール・ストリート・ジャーナル紙(the Occupied Wall Street Journal)」のために、デヴィッド・グレーバーによって書かれた。 訳者コメント: この運動については以前こう書いた。「私的に気になるのは、以前から感じていたことだが、『ウォール街を占拠せよ』運動はアメリカ建国の原点に(そこには先住民の問題もあるとはいえ)立ち返ろうとしているのではないかということ、そして、やはり代表制民主主義の機能不全が問題なのではないかということだ」。 また、あるコメント欄ではこう書いている「ところで、本当にあなたの記事は面白く読みました。OWSには、これまでを変えようとする方向と、民主主義の原点に立ち返ろうとする方向があると感じているのですが、後者のさらに以前にまで遡って民主主義について考えさせてくれる内容でした。その二つが交差する場所で、先住民とそれ以外の両者に対していい解決法が生まれるかもしれません」 それは、当然にも彼ら自身によって意識されていたことであるようで、この文章の中では、公民権運動を始めに、フェミニズム、アナーキズムといったラディカルなアメリカの歴史だけでなく、クエーカー教徒や「ネイティブ・アメリカン」までが組み入れられている。 この文章は、1日の夜にに玄海4号機の再稼働を決めた九州電力と経産省、野田政権などへの憤りを鎮めようとして翻訳した文章だ。「ウォール街を占拠せよ」には、民主主義国家にすむはずの私たちが置かれている状況とは、全く正反対の民主主義があることがおわかりだろう。というよりは、今の日本に民主主義はない。おそらくは国策主義、そしてアメリカ主義だけだ。 その意味において、今この文章を訳す行為は、はからずも玄海4号機再稼働への抗議の意味を持つこととなった。つまり、それは決して絶望してやるものかという態度であり、希望を持つこと、しかも、現在の醜悪な現実を批判するような種類の希望、それを人々と共有するという意味で抗議なのだ。 11/23の更新: 脱字が一箇所あったので修正。また、江上賢一郎氏とイルコモンズ氏の推敲中の共訳を参照しつつ、次の部分を変えた。今回の更新では、その二点以外の変更は無し。 変更前:私たちは、論理によって、直接民主主義、自由、人間の連帯の原則に基づく社会を証明したわけではない。私たちはただそれを行動することによって、実際に示して見せたのだ。 ところで、既にYouTubeやTwitterでは紹介したのだが、タハラレイコさんが字幕を付けた二本の動画、特に「コンセンサス(直接民主制@ウォール街占拠)」は直接民主主義によって運営される総会の様子がわかっておすすめだ。ブロックやその他のジェスチャーも登場する。もし、まだの方がいれば、ぜひご覧になっていただきたい。
by BeneVerba
| 2011-11-02 17:56
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