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未来を占拠せよ
Occupy The Future 2011年11月01日 - ノーム・チョムスキー 原文:http://chomsky.info/articles/20111101.htm この記事は、一〇月二十二日の「ボストンを占拠せよ」の占拠地であるデューイ広場におけるノーム・チョムスキーのスピーチを元に改稿したものである。彼は、当地での「ボストンを占拠せよ」自由大学主催によるハワード・ジン記念連続講演の一環としてこの講演を行った。故ハワード・ジンは、歴史家であり、活動家であり、『民衆のアメリカ史』の著者である。 私にとって、ハワード・ジンに関する講演を行うのは、ほろ苦さの入り交じる経験です。私は、彼がこの場に参加することができず、彼の人生における夢であったであろうこの運動を活気づけることができないことを非常に残念に思います。実際、彼はこれらの運動の基盤の多くを準備したのです。 もし、これらの出来事において確立された結束と連帯を、この先の長く辛い時期においても維持することができるのならば――とはいえ、勝利はすぐにはやって来ません――、占拠運動はアメリカの歴史において重大な意義を持つものとなるでしょう。 私はこれまで、この場所で、そして世界中で行われている占拠運動のような規模と性格を持った運動を全く見たことがありません。占拠運動は、この先に待ち受ける障壁と、既に到来しつつある反動を克服するために必要な、永続的組織の基礎となるであろう協同的なコミュニティを創出しようとしている前哨なのです。 占拠運動は、前例のないものであると共に、時宜に適ったものです。なぜなら、私たちが生きている時代が、今この時だけではなく、一九七〇年代以来前例のないものだからです。 一九七〇年代は、アメリカ合衆国にとって転換点となる時期でした。建国以来、常に適切なものではなかったとはいえ、この国は産業化と富の増大に対して社会を発展させてきました。 暗い時代においてさえ、継続する進歩への期待がありました。私は大恐慌の時代を覚えている年齢なのです。客観的に見て現在よりも厳しい状況であった一九三〇年代の中頃においても、その精神は現在と異なるものでした。 戦闘的な労働組合たち――CIO(Congress of Industrial Organizations)やその他の組織です――が組織され、労働者たちは座り込みストライキを実行していました。工場を自分たちの手に取り戻し、自分たち自身で運営するようになるまで後一歩だったのです。 民衆からの圧力に急かされて、ニュー・ディール政策が通過しました。圧倒的な人々の意識により不況を乗り切ったのです。 今では人々の意識は、希望のなさにあり、時には絶望にあります。これは私たちの歴史にとって、極めて新規な事態です。一九三〇年代には、労働者たちは、やがて仕事が戻ってくるだろうと期待することができました。もしあなたが、実際上その失業率が大恐慌のレベルである製造業に携わる労働者ならば、現在の政策が続く限り、仕事は永久に失われたままだと理解していることでしょう。 アメリカの前途に対する変化は、一九七〇年代から徐々に展開されてきました。数世紀に渡る産業化の過程は反転し、脱産業化へと変わっていったのです。もちろん製造は引き続き行われています。ただし海外で、です。それは利益にとっては良くとも、労働力にとっては有害なのです。 経済は金融化へと移行を遂げました。金融機関は途方もなく巨大化しています。金融と政策の悪徳的な循環が加速しています。加速度的に、富が金融部門に集中しています。選挙運動費用の増大に直面した政治家たちは、裕福な支援者たちのポケットの中へと飛び込むよう駆り立てられているのです。 そして、政治家たちはその見返りとして、ウォール街に有利な政策を実施しています。規制撤廃、減税措置、企業の支配に対する規則の緩和などです。これでは腐敗は不可避です。二〇〇八年には、政治家たちはまたしてもウォール街の企業を救いました。おそらはそれらの企業は潰すには大き過ぎ、その指導者たちは投獄するには大き過ぎるのでしょう。 今日では人口の1%の富裕層の更に一〇分の一のみが、この貪欲とペテンの数十年間において、利益を得ており、万事順調なのです。 二〇〇五年にシティグループは、――ところで、彼らはいくどとなく政府によって救済措置を受けているのですが――富裕層に更なる成長を遂げるように取り計らいました。この銀行は投資家たちに対し、「プルトノミー・インデックス(Plutonomy Index)」なる代物に資産をつぎ込むよう促すパンフレットを発表したのです。それは富裕な市場における企業の株式に応えるものです。 「世界は二つのブロックに分割されつつあります。プルトノミーと残りです」。シティグループはそう要約しています。「アメリカ、イギリス、カナダは、富裕層によって経済が支えられている、鍵となるプルトノミー国家です」。 不安定な実存を強いられて社会の周辺部で生活している、時にプレカリアートと呼ばれる非富裕層にとって、「周辺部」とはアメリカでもどこでも社会の実質的な部分のことです。 つまり私たちはプルトノミーとプレカリアートに分割されています。占拠運動が理解しているように、1%と99%に。それは実際には正確な数字でなくとも、正しく社会を描き出すものです。 未来に対する人々の信頼の歴史的な反転は、逆転不可能になりつつある傾向の反映です。占拠運動は、それをダイナミックに変えようとする最初の大規模な民衆的反応です。 これまでは国内の問題についてお話ししてきました。しかし、国際的な領域における二つの危険な開発が、あらゆる場所に暗い影を投げかけています。 人類の歴史において初めて、人類という種の生存に対して二つの現実的な脅威が存在しています。一九四五年以来私たち人類は核兵器を保有しています。私たちがそれにより絶滅しなかったのは、奇跡であるかのようです。しかし、オバマ政権とその同盟国はその政策を推し進めるよう推奨しているのです。 もう一つの脅威は、もちろん環境的な破滅です。実際的には、世界中のあらゆる国家がそれに対する何らかの停止措置を講じなければなりません。しかし、アメリカはそれに逆行する措置を取っているのです。実業界では広く知られたプロパガンダのシステムが、気候変動はリベラルの作り話だと宣言しています。何で科学者連中に注意を向ける必要があるんだ?と。 もしこの非妥協的態度が、この最も豊かで最も権力を持った国家において続くのならば、破滅は避けられないでしょう。 規律があり、持続的な何かがなされなければなりません。それもすぐにです。それを進めていくのは簡単なことではありません。いくつもの困難や失敗が私たちを待ち受けているでしょう。それは仕方がないことです。しかし、この場所で、そしてアメリカ中で、世界中で繰り広げられているプロセスが、成長し続け、社会と政治の領域における主流とならない限り、まともな社会を築く機会は暗いままであり続けるでしょう。 大規模で活発な民衆的基盤なしに、意義のある構想を達成することはできません。国中に出かけていき、人々が占拠運動とは何であるかを理解する助けとなることが絶対に必要です。彼らに何ができるのかを知らせ、何もしなかったら何が起きるのかその結果を知らせるのです。 そのような民衆的基盤を組織化するということは、アクティヴィズムに教育を関係させるということです。教育とは、人々に何を信じるべきであるのかを説くことではありません。教育とは人々から学び、人々と共に学ぶことなのです。 カール・マルクスは「問題は世界を理解することではなく、変えることだ」と言いました。これの変換である「もし世界を変えたいのならば、世界を理解しようとしなければならない」という言葉を心に留めておいてください。それは演説に耳を傾け、本を読めということではありません。それらも時には有用ではありますが。あなたたちは運動に参加することで学ぶのです。他人から学ぶのです。あなたたちが組織化したいと望んでいる人々から学ぶのです。理想を形成しそれを実行するために、私たちはみな理解力と経験を増大させる必要があります。 占拠運動における最も興奮する側面は、あらゆる場所で展開しつつあるつながりを構築するという部分です。それらが拡大され維持されれば、占拠運動は、社会をより人道的な道筋に導くという献身的な努力をもたらすことでしょう。 訳者コメント: 久しぶりの翻訳。おそらくは読者の方の多くもそうであるように、年末ということで忙しく、訳したい文章、再チェックしたい翻訳はいろいろとあるのだが、なかなかそのための時間が捻出できず申し訳ない。 最近では、各地の占拠地が強制排除され、占拠運動は収束に向かいつつあるかのような雰囲気が形成されているようだ。が、占拠運動はそのようなものではない。このチョムスキーの文章が示唆するように(そしてまた雨宮処凛さんが『週刊金曜日』に書いていたように)、私たちは革命の時代のとば口にいるのだ。例えばバスティーユ襲撃からパリ・コミューンまでのような長いスパンで捉えることが必要だろう。 そしてこの文章はまた、革命の発端にいる私たちは何をすべきかを教えるものでもあるのではないだろうか。「未来を占拠せよ」という題名はそういう意味に思われる。ジジェクの「彼らは悪夢へと変わろうとしている夢からの目覚めなのだ」という言葉や、「新しい内容を展開するには、時間が必要なのだ」という言葉を思い出してみてもいいかもしれない。 あと、一つ気になる点を挙げれば、チョムスキーがここで1970年代という時期にこだわっている点だろうか。「情報化社会」「後期資本主義」など用語は何であれ、この時期に資本主義にある変質が起きたことは私には確かなことに思われる。前述の雨宮処凛さん――いわゆる「ロスジェネ」の旗手とされている――もまさにこの時期の生まれである。
by BeneVerba
| 2011-12-21 19:21
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