雑感:革命は翻訳できない/世界の運動を翻訳することの困難について
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 ギル・スコット・ヘロンは、一九七一年に「革命はテレビに映らない(The Revolution Will Not Be Televised)」とラッピングした。スライ・ストーンは、同じ年に発表されたアルバム「There's a Riot Goin' On(暴動が進行中である)」に、アルバムと同名の「曲」を入れた。マーヴィン・ゲイはやはりこの年に発表されたアルバムのタイトル・トラックで、「今起きていること(What's Goin' On)」に目を向けるように呼びかけた。

 その四〇年後にあたる昨年二〇一一年、とてつもなく多様で流動的な反資本主義運動「ウォール街を占拠せよ」(OWS)が起きた。

 OWSやその周辺の情報について調査していると、自分のブログに突き当たることがよくある(もちろん、それまで存在を知らなかった情報にたどり着くこともある)。あるいは関連する情報を調べていくと、まとまったものが存在せず、複数の記事が伝える断片から全体を構成しなければならなかったりする。

 この問題は、『ウォール街を占拠せよ/はじまりの物語』の訳註を書く時に、深刻なものとなった。参考にできる書籍はほとんど存在しなかった。情報を求めて、一日中インターネットをあさり、わずかな記述のために図書を読み、問い合わせのメールを送信する日々が続いた。そうした調査の結果が訳註の一行や一節に変わった。訳註のみを書く専門家を雇いたいと思った。

 『はじまりの物語』が発行されたのは、奥付では九月一七日である(実際には配本はもっと遅れた)。ニューヨークからのルポが寄せられている『デモ!オキュパイ!未来のための直接行動』は、八月二八日発行。『市民蜂起/ウォール街占拠前夜のウィスコンシン2011』が一〇月一日発行。昨年に始まったことが、本格的な日本語の情報になり始めたのはごく最近のことだ。今後には、作業中と聞いている、スペインの五月一五日運動についての書籍の邦訳が控えているはずだ。

 世界の運動は進行中である。今も動いている。私はそのような条件のもとに訳している。このブログやその他で。

 これからより情報が伝わるにつれて、日本にいる人々が世界の動向に気付き始める可能性はある。だが、運動の情報を日本語に翻訳したり、それを読んだりするよりも――それも悪くないが――もっと良いのは、おそらく何かに参加することであり、自分(たち)で何かを始めることだ。




by BeneVerba | 2012-10-27 05:52